東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)67号 判決
一 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
成立について争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、本願発明特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載は、事実摘示第二、一、2記載のとおりであり、本願発明は、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)に含有されるカルビノール基をもつ不純物を、DHPOから、該カルビノール基のモル数の合計がDHPOのモル数に対して一六モル%以下になるように、除去操作を施すことを一つの要件とするものであると認められる。
審決(成立について争いのない甲第一号証)は、引用例(成立について争いのない甲第三号証)の実施例2においては、ジイソプロピルベンゼンを酸化して得た生成物を苛性ソーダで抽出しているが、この抽出はカルビノール化合物であるメター(2―ヒドロキシ―2―プロピル)―α・α―ジメチルベンジル―ハイドロパーオキサイド(CHPO)を除去する操作ではなくても、その後メチル―イソブチルケトン(MIBK)抽出を行つているのでDHPOとCHPOとの分離は行われている旨を認定する。しかしながら、前掲甲第三号証に、成立について争いのない甲第四ないし第六号証を綜合すると、引用例の実施例2ではジイソプロピルベンゼンの酸化生成物を苛性ソーダで抽出し、このアルカリ抽出液を二酸化炭素で中和したのち、MIBK抽出を行つているところ、この中和液である炭酸ソーダ溶液の場合にはMIBKを用いて振り分けを行つてもカルビノール化合物であるCHPOは炭酸ソーダ中に残留せず、DHPOと共にMIBK中に移行してしまい、DHPOとカルビノール化合物であるCHPOとは分離されないことが認められる(引用例は、もともと、DHPOとカルビノール化合物を分離することを目的とするものではない――引用例第二頁左欄一一~一二行参照)。
被告は、本願明細書の特許請求の範囲の「カルビノール基をもつ不純物を……除去操作を施し」なる文言は出願当初の明細書中にはなく、それが用いられたのは昭和五二年八月三一日付の手続補正書においてであり、その補正は明細書の要旨を変更するものであるから、補正後の特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明と引用例の発明は同一とはいえないということはできない旨主張する。
しかしながら、審判官は、原告のした右の補正(成立について争いのない甲第二号証の四)を、要旨を変更するものとして却下することなく、補正を是認して、本願発明と引用例の発明とを比較し、両者は同一であると判断したものであるから、その判断に基づく審決取消請求訴訟である本件訴訟において、被告は、前記補正は要旨を変更するものであるから、補正前の本願発明と引用例の発明とを比較してその同一性を論ずべきであると主張することは許されない。
以上のとおりであり、本願発明も引用例の発明もDHPOから、それに含有されるカルビノール基をもつ不純物の除去操作を行つている点において同一であるとした審決の判断は誤つており、その誤つた判断に基づいて両発明は結局において同一であるとした審決は違法であるから、その取消を求める原告の請求を認容して、これを取消すこととする。
〔編註〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四七年一一月二一日、名称を「ジハイドロパーオキサイドの分解法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和四七年特許願第一一七四四六号)したが、昭和五二年五月二三日、拒絶査定を受けた。そこで、原告は、同年八月四日、審判を請求し、昭和五二年審判第一〇二七三号事件として審理された結果、昭和五五年一月三〇日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年二月二五日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
ジイソプロピルベンゼンを酸素もしくは酸素含有ガスで酸化することによつて生成したジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(以下「DHPO」という。)を酸接触分解としてレゾルシン及び(又は)ハイドロキノンを製造するにあたり、予めDHPOに含有されるカルビノール基をもつ不純物を、該カルビノール基のモル数の合計がDHPOのモル数に対して一六モル%以下になるように除去操作を施し、しかるのちにDHPOの酸接触分解を行うことを特徴とするジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイドの分解法。